健康被害
劣化ウラン弾頭が着弾し、あるいは劣化ウラン装甲に被弾することによって劣化ウランが燃焼すると、酸化ウランの微粒子となり周囲に飛散する。これが体内に取り込まれた場合、内部被曝や化学的毒性による健康被害を引き起こすとして、その影響が懸念されている。
湾岸戦争後、米軍の帰還兵などに「湾岸戦争症候群」と呼ばれる健康被害が確認されており、劣化ウランがその原因の一つではないかとする説がある。また過去にも劣化ウラン弾頭が使用されたボスニアやコソボ等の地域においては、白血病の罹患率や奇形児の出生率が増加した等と主張する健康被害が報告されている。
これらの懸念や報告に対し、劣化ウラン弾頭や劣化ウラン装甲を使用する当事者であるアメリカ政府の公式見解では、劣化ウラン弾による健康被害を否定しており、この症状は劣化ウラン弾による影響ではなく、フセイン政権がかつて用いた化学兵器の残留物の影響であると主張している。
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また「湾岸戦争症候群」についても、イラク軍による油田破壊によって放散した化学物質の影響や、戦争前に兵士に投与された対化学戦用ワクチンの副作用によるものであるとする説もある。湾岸戦争に限定したそれらの説に加え、ボスニアやコソボを含む「白血病の罹患率や奇形児出生率の増加」に関するデータも、当事者として医療現場が主張する統計的な根拠や信頼性に対しては疑問を提示している。UNEP の公式報告書でも、ボスニア・コソボにおける劣化ウラン弾使用の放射線による影響を懸念・重要視していない。WHO は UNEP の収集したデータを基に「DU が紛争で使われた地域の住民や滞在していた民間人に対して、DU 毒性に関する医学的スクリーニングを行う健康上の理由はない」と結論づけている。これらは主に、DUの汚染が現場から数十m単位に限局されており、一般住民が継続的にDUに曝露される可能性が極めて低いことが理由である。
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これらの指摘・症状と劣化ウランとの因果関係の証明には、疫学的に有意なデータを得るだけでも膨大なサンプル数の確保と時間が要求されるため、標本の量・質とも決定的に不足している現段階では、シロ・クロのいずれとも結論を出すのは困難であるという指摘がある。また、性質上その被害が発展途上国に集中しやすく、軍事衝突でのみ被害が発生するため、企業による研究資金の拠出がほとんどないことも、この分野の研究の困難さに拍車をかけている。
ただし、劣化ウラン弾頭や劣化ウラン装甲を使用する当事者からの反論である「化学兵器の残留物質説」「油田破壊により発生した化学物質説」「対化学戦用ワクチンの副作用説」等の主張のいずれも、同様に背景となるサンプル数や根拠について科学的・医学的判断が難しい点では同様であり、双方の主張と反論は互いにその信頼性・妥当性のレベルで水掛け論の様相を呈している実状もある。
また、環境・人体への悪影響が懸念される以上、少なくとも安全性を明確に確認するまでは、予防原則に基き保有および行使は規制・禁止されるべきであるとする慎重な指摘もある。
[編集] 是非をめぐって
劣化ウラン弾頭の扱いの是非をめぐっては、目下のところもはや科学的・医学的な知見と判断による理性的な世界からは大きく乖離し、イデオロギー対決の様相を帯びてしまっているのが現実である。
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対立点は、およそ以下の4項目に整理できる。
劣化ウランの物性
健康被害の影響の有無
劣化ウラン弾頭の兵器としての分類
実効性
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1. の劣化ウランの物性については、劣化ウランは化学毒性をもつ重金属であり、また放射性物質である。実際に、弾頭や装甲に応用されているものを除いた劣化ウランは、他の低レベル放射性物質と同じく管理下におかれ、環境への漏洩や放散といった事態が発生しないように運用されている。したがって、弾頭や装甲に利用された劣化ウランだけは特別に安全であり問題ない、といった論調は、もしもそのような論を立てている者が劣化ウラン弾頭・装甲の使用に関して否定的でない側に立脚しているとするなら、その判断と主張は多分に恣意的なものであるか、あるいは理解と配慮が足りていないと判断せざるを得ない。
2. の健康被害への影響の有無については、2005年現在ではサンプルも追跡件数・年数も不足しており、疫学上有意な結論を導くことができる状態には無いのが現実である。これはつまり、シロともクロとも判断できない処分保留の状態であり、懸念は懸念として存在し続けているということである。したがって、殊更におおげさにその懸念や影響を喧伝したり、あるいは現時点でクロでないならシロとして扱うべきであるというような、自らの依る立場に都合のよい解釈をする者達の言説に対しては注意深くあらねばならない。
一般論として、放射性物質が人体に及ぼす放射線の影響の強さは総合的に考える必要があり、過度の危険視も、過度の軽視も、それにより事実を見誤る可能性がある。
放射性物質としての特性と比べ、劣化ウランの重金属としての化学的毒性とそれによる健康的・遺伝的影響力に関する言及・研究は乏しい。
劣化ウラン粉塵の吸入や経口摂取で人体に吸収される質量は少なく、放射能は多くないため、放射線障害のうち、確定的影響を考慮する必要はない。問題となるのは確率的影響によるガン性のものであるが、確率を推定するためには多数の症例が必要である。ところが、前述のように当該地域での使用前の疫学データが乏しい。これまでなされた、ICRPなどによる確率的影響の評価でも、劣化ウランによるような低線量被曝はカバーされておらず、2007年時点で妥当とされる理論の構築に至っていないのが現状である。
3. の劣化ウラン弾頭の兵器としての分類に関しては、二つの側面を持つ。
一つは、劣化ウランが放射性物質としての性質をもつ点を極度に危険視するあまり、劣化ウラン弾頭を熱核兵器や大量破壊兵器と混同する論調である。劣化ウラン弾頭の焼夷効果は熱核反応によるものではないため、この点を混同する批判者には劣化ウランの物性および核分裂に関する知見がないものと判断することができ、明確に否定できる。
もう一つは、劣化ウラン弾は使用することで、低レベルであるとはいえ放射性物質である重金属の粉塵や微粒子を環境に放散させ汚染する兵器である、という側面である。このことは物性から明らかであり、したがって、「劣化ウラン弾頭は核兵器や大量破壊兵器に分類されない以上は通常の兵器であり、通常の兵器である以上は無害であるから、懸念そのものが存在しえない」といった論調もまた、明確に否定できる。
2005年初夏の段階で、国連その他の公的機関では、劣化ウラン弾を大量破壊兵器には分類していない。ただし、国連人権小委員会は1996年に、大量破壊兵器(核兵器・化学兵器・生物兵器)と並び、「燃料気化爆弾、ナパーム、クラスター爆弾、劣化ウランが含まれる兵器」を「無差別的な効果のある (indiscriminate effect) 兵器」とし、これらの生産と拡散の制限と、間接的・累積的な効果等の情報収集を国連事務総長に要請している。
4. の実効性については、単純に砲弾としての優劣の問題である。
劣化ウラン弾はタングステン弾に質量において勝るため、対象に与える運動エネルギーでは有利だが、硬度ではタングステン弾の方が有利で、したがって充分に装甲された対象への貫通力はタングステン弾の方が有利であるというものである。
この論点については、上述のように、劣化ウラン弾芯とタングステン系弾芯の侵徹を比較した研究において、自己鋭利化 (self sharpen) が起きる劣化ウラン弾芯の方が高い侵徹性能をもつことが示されており、弾芯材料としてタングステン系素材より優秀なことが証明されている。
また、タングステンは高価な稀少金属であり、廃棄物である劣化ウランは極めて安価であるため「数が揃う」こと、及びタングステンは中国に偏在しているため、西側諸国にとって、兵器の原料を共産圏に依存することの可否と言う問題もある。
つまり、推進論者の論拠は戦争はもともと危険なものであり「敵弾に貫通されて死ぬより、劣化ウラン装甲で低レベル被爆をしたほうがまし」と被爆する当人の軍人が思っているなら、劣化ウラン装甲禁止で敵弾に貫通されて死ぬ当人でもない左翼団体が禁止運動をして軍人から劣化ウラン装甲を取り上げようとするのは、軍人から見れば迷惑だという事に尽きる。
[編集] 「政治的な主張」の問題
劣化ウラン弾の辞書的定義を語る際には、その物質的特性と並んで、「政治的な主張」をめぐる言及を回避することは難しい。
現在、公的に劣化ウラン弾の使用を認めているのがアメリカ政府と NATO であること、および劣化ウランが放射性物質であることの2点から、しばしば劣化ウラン弾の「被害」については、ボスニアやコソボやイラクその他の小児白血病患者を中心にした「子どもの画像」が、反米・反核をイデオロギーとして持つ団体によってプロパガンダ素材として使われているという現状もある。